遠見尾根〜五竜岳登山

平成19年4月14日-4月15日
参加者:dani(スノーシュー)、JNK、YO(わかん)

動画

最近さっぱり山に行かなくなったが、意欲ある若者たち?に刺激され、久々に尾根歩きなどに行ってみた。

<4/14>
7:00 土尻集合
8:00 五竜とおみスキー場
9:00 地蔵の頭
10:40 小遠見
11:10 中遠見
13:00頃 西遠見
15:30 雪洞掘り完了
19:30? 就寝

 3人とも五竜岳は初めて。 
 ゴンドラ乗り場で登山届けを出し、出発。ゴンドラのチケットは荷物代込みで往復2000円ナリ。
ゴンドラ降りるとガスっている。自分たちが登る用意をしていると、3人くらいがつぼ足でゲレンデを歩いている。結構入山者がいるんだなと思っていたが、彼らはすぐそこの小屋の人たちだった。
  我々は3人でゆっくり地蔵の頭に向かう。もう1本リフトに乗ればすぐなのだが、スキーじゃない我々はゴンドラ降り場から歩く。
  地蔵の頭付近は雪がなかった。もう少し南側を巻いて地蔵の頭に登らないほうが、楽ができる。
  小遠見までは誰にも会わなかった。急斜面を登り、これからの山のことを考えながら、ゼーゼーしていると、急に携帯が鳴る。山で鳴る携帯ほど興ざめなものはないが、一応取ってみる。

ヲカダだ。

ヲカダ 「なーなー、オート●ックスのオイルのカード知らん?」
だに 「しらん!(怒!)」

あー、非日常的な快感から下界の日常に一瞬にして引き戻された。

その後、小遠見の緩やかな尾根に出る。小遠見のピーク上には複数の登山者がおり、尾根上にはテントが2張りあった。彼らは写真を撮りに来たのだろうか。テント脇にはカメラ三脚がたくさんあった。

小遠見を越え、中遠見に向かう途中の尾根上で、 一人の登山者に会う。下っているのか登っているのか分からない速度で動いているおじさん。すれ違い様、やはり明らかに動きがおかしいので、「どうかしたんですか。足を痛めているんですか?」と聞くと、五竜の二つ目のコル付近(GIIだろう)で500m滑落し、必死で這い上がり、今日、ここまで下山してきたという。滑落時に足を捻挫したという。ここまで下山するのにすでに2泊しているというそれは遭難しているということではないのか?

僕は思わずこういってしまった。
「それにしても、よく助かりましたね! 」

おじ様に「食料や水はありますか?」「下山できますか?」などと聞くが、何度きいても大丈夫だという。この御仁かなりのツワモノだ。足が痛そうなのを除けば、しっかりしていそうだったので、そこで別れた。帰ってからニュースになっていなければいいなと思っていたが、 YO君いわく、既に金曜日の時点で行方不明のニュースがあったそうだ(皆、帰ってから知った)。

このおじ様は滑落したときの雪質について、「氷の上にモナカ状の雪が乗っていて悪かった。歯が氷に立たなかった。何度かけって、雪をよけてから氷に足を乗せればよかった」と言っていた。

しかし、このとき、このおじ様からの情報が、この後の我々のキーワードになるなど夢にも思わなかった・・・

それから、大遠見までの間にどんどん天候が悪化する。視界は悪くなり、横殴りの風と氷の粒が顔にたたきつけられ、目出帽がないと歩けない状況になる。体感風速40-50m/sというところか。ときどき耐風姿勢をとりながら前進する。やがて白岳手前のコルの手前のピークに立つ。このとき迂闊にもサングラスを飛ばされてしまった。。。
前進すれば、明日は楽だが、視界がなく、この先によい幕営場所があるかどうか分からないので、西遠見の南側斜面に雪洞を掘ることにした。この風じゃあ、テントなどとても張れそうにない。

午後1時過ぎから2時間ちょっとかけて3人分の雪洞を掘る。スピードアップのため入口を2箇所にして掘り出したが、風の通りがよすぎたため、荷物を中に入れた後は、入口をツェルトと雪ブロックで一つ閉じた。片方はで入口としてテントですだれのように閉じる。雪洞を掘っている最中もそうだったが、入口が雪でどんどん埋まる。最初はトイレに行くときに雪をかきだそうと考えていたが、途中で外にでることをあきらめた。オシッコは愛用していた広口のペットボトルにやってしまった・・・

夕飯はYO君プロデュースのラーメン。美味しかったですよ。お酒も持っていったが、寒くて進まず、結構残してしまった。皆、疲れていたので、早々に就寝。

寒くて冷たい、長い夜だった。



<4/15>
4:00 起床
6:00 雪洞発
7:20 白岳
9:00 GIIの頭
   事故発生
10:30 五竜山荘
12:30 西遠見(雪洞)
14:30 中遠見
15:10 小遠見
16:30 ゴンドラ乗り場

朝起きると、風の音は聞こえない。Jが外に出ようとするが、入口は完全に埋まっていて出られない。スコップで掘り出して外に出たJは、星が出ていて風もほとんどないという。今日はひょっとしたら良い天気〜かもしれない。

昨日の残りのアルファ米で雑炊を作り、腹にかきこんだ後、急いで出発準備をする。もう外は明るい。5時からヘッドランプ無しで行動できるくらい。

雪洞に荷物をデポし、歩き始める。
鹿島の北壁がきれいだ。写真→

白岳までは特に問題なし。ただの雪稜歩き。白岳から西遠見までは短いけれど快適に滑られそう。ただし、雪崩は多いようだ。

 

白岳のピークを踏み、写真を取り合う。この写真が最後になったりして・・・などといいながら。
左からJ, YO, dani。 しかしまあみんな同じ色のウェア。

   

白岳から五竜山荘まで下り、小屋の軒下で休憩。

それからG0に向かう。G0は問題なし。GII付近は雪が固く、氷もあるミックスになる。アイゼン初心者にはどきどきするところだ。

ところどころのミックスでは、ダガーポジションでピックを打って確保してから、足を進めるように皆に伝える。小遠見で会ったおじ様が滑落したのはおそらくこの辺だろうと思いながら、下を見る。60度くらいの雪壁はなるほどグサグサの部分や固いところあり、ミックスありで、アイゼンピッケルだけじゃなく高度にも慣れていないと結構怖いところだ。慎重に足を進め、GIIのコルにもう少しまでのところの安全なところで、後ろを見る。ちょうどそのとき、YO君がGIIの頭を通過してこちらに歩いているところだったので、写真をパチリ(下右)。




コルまでもう少しだから、二人を待ってから進もうと思って、Jを待つ。

しばらく待つ。。。

しかし、来ない。

待ってみるが、来ない。というか気配がない。

コールをかける。

返事がない。

ホイッスルを鳴らす。

やはり返事がない。

YO君が少し引き返して、背後の尾根の向こうを覗く。
僕はそこにもしJがいないとYO君が答えたら、非常事態だと確信する

YO君が尾根向こうを覗く。

「いません」とYO君が叫ぶ。

僕は、黒部側の斜面下を除きながら、小さな尾根を二つ越えて戻った。すると、ここだ!というところで、斜面のかなり下の方でJが立ち上がって動いているのを発見した。写真下(ピンボケ)。



何百m落ちたのだろうか。よく分からない。
いつ落ちたのかも分からない。
それは音もなく、まったく一瞬の出来事だったのだろう。

しかし、Jが両足で動いているのが見えた。
良かった!大きな怪我はないようだ。

上からJに向かって叫ぶ。

「大丈夫かーーー」と聞くと、

「大丈夫だーーー」と答えたような気がした。

アックスで五竜山荘方向を指し、トラバースして戻るよう指示する。

YO君と僕は、意外にも冷静に、ゆっくりと五竜山荘方面に下山を開始した。かなり慎重に下る。YO君ともつかず離れず、降りるように自分に言い聞かせる。せっかちな僕は、「五竜山荘まで(一人で)ゆっくり下山して待っていてくれ」と言って先を急ごうかとも考えたが、3人ばらばらになって2次遭難まで起こせば、最悪の事態になる。Jは動いているようだが、骨ぐらいはいっているかも知れないし・・・二人で救助に行ったほうがいいかもしれない。

ここは落ち着いて、離れず行動しようと決めた。

ときどき下を見て、Jを探す。さっきは登っているように見え、しばらくすると下っているように見え、もう一度見るとトラバースしているように見えた。???と思うが、五竜山荘方面に向かってくれていることを祈る。

YO君は冷静でゆっくり降りてくる。足元も確実だ。疲れている様子もない。G0まで降りてから、Jがおそらく出てくるであろう地点に向かって、稜線から離れ、下降を開始する。ここで再びYO君を稜線に残すかどうかで悩むが、(YO君に無線機もないし)やはり一緒に行動することにする。自分が先行し、安全を確認してからYO君を呼び寄せることを繰り返す。下降し、尾根をいくつか越えると、Jがこちらに向かってトラバースしているのが見えた!

「怪我はしてないかーーー?」と聞くと、

「右足首が痛い」という。また、メガネがないという。Jは裸眼じゃ0.1ないらしい。

しかし、下山は出来そうだという。
「というかヤルしかないね」とJ。

このコトバを聞いて、かなりホットする。五竜山荘までどうにか移動して、最悪の場合、ヘリでピックアップも考えていたので。

ようやく3人が合流し、滑落地点を仰ぎ見る(写真下左の中央のルンゼ)。
あんなところから落ちて、よく助かったものだとビックリする。1箇所岩場があって、その下の雪面に大きな穴があり(写真左の中央下くらいの雪面の穴)、そこから停止地点まで雪面にトレースが見えた。あの岩場でクリフジャンプをして着地地点が大きな穴なのだろう。

 

Jいわく、どうして落ちたのかは分からないが気がつけば滑っていて、アックスは弾き飛ばされた。ものの数秒でかなり加速し、目の前に岩が迫った。そのとき、死を覚悟した。しかし、荷物が重かったからか、頭が上か下かは分からないが、とにかく岩にはザックがクッションとなって当たった。それから空中を飛んで、着地したが、着地地点の雪はやわらかかった。それから傾斜が落ちてきたので滑落停止をやると止まったとのこと。
停止した地点も結構急で、よく止まったなという感じの斜面だった。。。

いくつかの不幸中の幸いがあって、助かったようだった。滑落地点を見れば見るほど、眼前の出来事は奇跡に思えてきた。

このとき自分は入山間際にヘルメットを置いていったことがアダにならなくてよかったと、心底思ってしまった。つまり頭部に何もなかったということ。こんなときにすら保身に考えがはしる小さな人間のオレ。

それから、無線機の重要性についても改めて認識した。3人とも持っていれば、もう少し、危険を回避できたようにも思うし、もしもの場合にも重大な役割を果たしただろう。

@@@

稜線に向かう前にJの荷物を降ろし、YO君と僕とで分担する。
Jのザックを持つと、その重さに驚く。一体何が入っているんだ・・・
荷物のうちギア袋はなくなったようだった。滑落中に落ちたようだ。

荷物を分けて持ち、ゆっくりと歩き出す。

Jは足首が痛くて、固い雪面や氷は辛そうだった。もう一度滑落したら、どうしようか、などと思いながら、辛そうなJは休みながら足を進める。

長い時間をかけ、ゆっくりとトラバースし、最後は少し登って稜線に出た。このとき3人で抱き合ってしまうのではないかと思うほど、心底ほっとした。一応、安全地帯に抜けたし。この時点で10:30。思ったほど、時間はたってなかった。

これから西遠見のデポ地点に向かい、荷物をまとめて13時に出たとして、帰りのゴンドラの終了時間16:20に間に合うかどうか。無傷だと楽勝だが、この状況では結構、きびしい。Jも今はがんばって歩いているが、緊張が解けてくると痛みが増すことは往々にしてある。いずれにしても自力下山を選択した以上、歩くしかない。

ここらで、朝会ったおじ様のことを思い出す。思えば、まったく同じ場所で同じように滑落したのではないか。Jとおじ様が違ったのは右足の捻挫の具合がおじ様の方が深刻だったことと、おじ様は単独であったこと。

それからだんだん、おじ様が実は死神だったのではないかとさえ思い始めた。あるいは予言者か。

長い時間をかけ、デポ地点にもどる。僕は白岳の斜面でグリセードが出来たが、足が痛いJはゆっくり1歩1歩下るしかなかった。

デポ地点で荷物をまとめ、下山する。初日は吹雪で景色が見えなかったが、帰りは景色が良く見えた。

 

小遠見まで下山する。15時までにつけば、ひょっとしたらゴンドラ最終便の16:20に間に合うかもと思っていたが、ついたのは15:20頃だった。それでもわずかな望みで先を急ぐ。Jの顔は無表情でメガネがないからか、どこか視点が定まらないように見えて、チョット怖い。でも、気合で歩いてくる。足も大分腫れて来ている様だという・・・

ようやく地蔵の頭が見える地点に来る。すると赤い服を着た人が、地蔵の頭に見えた。そのときは気にしていなかったが、さらに下ると、その人が地蔵の頭の付近から我々に声をかけてきた。

「下山されますかーーー」

「はーーい」

「ゴンドラに乗りますか」

「はーーい、できればーー」

この時点で16:10くらいだった。我々はゴンドラに乗ることを半ばあきらめていたが、その人はスキーパトロールらしく、無線機でなにやらやり取りして、下山のために乗ることを許可してくれた。
また、Jの様子も気遣ってくれた。感謝。何度もお礼を言う。

地蔵の頭からようやくスキー場に降り、だれもいなくなったゲレンデをゴンドラ乗り場に向かって歩く。ようやく下山。
ゴンドラ駅に 16:30着。ただ、ひたすら安堵。Jよ、よくがんばった。


ゴンドラに乗り、今日の出来事を振り返る。Jは親に知られたらまずいなあなどとつぶやく。

「また、リベンジに来る?」

「くるのかねぇ、ははは」

「きっとまた来るよ。ははは」

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帰りに駅まえの食堂で反省会と称して飯を食う。
窓から見える五竜岳の武田菱が黒々としている。

「Jが落ちたのはちょうど武田菱のうらっかわだね」

「今度、メガネ拾いにいくか」

「ギア袋もね」

こんなのんきな会話が成立するのも、助かったからだ。それは本当に紙一重の出来事だった。まだ、思い出話にしてしまうには、時間が経過していない。
これから反省しなきゃいけないことは山ほどある。

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P.S.
小遠見であった死神は、今頃、家庭で山での話を武勇伝のように話しながら酒を飲んでいるのだろうか。
それとも奥様にこっぴくしかられているのだろうか。



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